明日葉(八丈草)

この頃の健康食品ばやりで、街のスーパーマーケットの野菜売場にも「あしたば」の束が並べられるようになった。南の伊豆大島から海を超えて空輸輸送である。船で運ばれれば舶来品でハクがつくのだが、少し残念である。
マスコミの報道や園芸会社の宣伝で知れわたったが、豊富に出回る他の競菜と一緒に並べられては、見劣りするので脚光を浴びるまでには到らない。結局は、一部の晴好食品にとどまっているのが現状である。
鳥も通わぬと唱われた八丈ケ島では、昔から島民の野菜に常用され、特産の黄八丈織と並んで八丈草とも呼ばれ、徳川期には多くの流人がこの草で細い命をつないだ。近くの伊豆大島へ流された源為朝も、同様にあした葉を味わって元気をとりもどし後日、鎌倉で源氏の旗を挙げた。これは、この植物に強精剤の薬効があるためだとの伝説がある。なるほど三浦半島ではピンピン草と呼んで強精食品に認められ、一部の人に愛用されている。

辞書の簡単な説明は次のよう。
あしたば―――一名あしたぐさ、はちぢょうそう。セリ科の大形多年草。成長が早いところからの命名で、今日摘んでも翌日には発芽するの意。
わが国暖地の海浜に生じ葉は羽状複葉、花季は秋、白色の小花を複散形花序に綴る。食品の他、乳牛の飼料とすれば乳質良くなると謂う。繁殖は実生と株分け。
以上が要点である。判ったようで、よく判らない。百聞より一見で実物を見るに越したことはない。
伊豆諸島だけの産地と考えていたが、対岸の伊豆半島と房総半島の一部にも野生するという。タネが海流で運ばれたものか。
房総の自生地では、牛の飼料にすれば乳の出が良くなると農夫が語った。牛に利くくらいだから強精の要素を含有している証明で、ピンピン草のいわれも判る。
徐副が不老不死の薬を探した伝説を想いだして、伊豆大島の観光ツアーの一行に加わった。

ここは先年の三原山の噴火で騒がれたように、御神火と椿の花で知られる。
島に上陸すると耕姿のアンコ達が椿の花を捧げての歓迎に、良い気分になっていると油断大敵で、次のあしたば責めが待っていた。
島の旅館や民宿は、一様に椿油の天ぷらにあしたばのお浸し、汁の実もあしたばで客をもてなす。初めのうちは物珍らしさで箸をとっても、二度三度と重なれば飽いてくる。ついには横を向いて敬遠となる。
街の土産物店を覗くと、ここにもあしたば茶というのがあり、袋入りの種もある。オールあしたばの攻撃で、こちらは飛んで火に入る夏の虫である。
売品の種子はそのまま播いてはダメ。この植物は、秋に沢山の種子を地上に落して長い眠りに入る。やがて気温が上る春を迎えて初めて目ざめ発芽する。この性質から、冬眠させるためにタネの冷凍処理が必要となる。
島の南端に波浮の漁港がある。野口雨情の「波浮の港」で有名になったが、山に固まれた小じんまりとした港。珍しい地名と拝情豊かな曲が当時’つけたものであろう。
港は魚市場と食品加工の建物だけが目立ち、あとは小さな民家が並んでいる。例の「波浮の港」の歌碑が港に立てられていた。歌詞の鵜の鳥は棲まないが、あしたばの群落は村はずれから生えて雑草のよう。小洞の石段もその葉で埋もれている。ここでは路ばたの雑草と同じで土地の人も問題にしていないようである。
房総の名勝地の一つに鋸山がある。徳川時代に大量の石を切り出したために、山頂一帯の峰が露な凹凸の山容で鋸の歯のよう。そこからつけられた名である。登山口からケーブルで山頂に着くとパノラマの光景が展開する。大島の御神火、三原山の噴煙もはるかに望まれ、一望の海面は鏡に光って陶然となる。
一行の連れの婦人が「これはあしたばらしい」と折って差し出した。切り口がみるみる黄変して、あしたばの特徴を見せる。図鑑と対照して、まさしくあしたばと判った。

気がついて周囲を眺めると、特有の濃い緑の葉があちこちに発見される。燈台下暗しとはこの事であろう。大島特産の稀少価値が下る。バブルがはじけて株が下落した当今と同じである。
更にこれまで雑草と見すごしていた山麓は、何年も人知れぬあしたばの処女林であった。悦びに目を輝かして摘む。よりどり見取りで新芽の太いのを選んでリュック一杯に詰めこんだ。太古の生活が浮んで、自分も原始人に返った心持ちがする。
気がつくと夕暮近い。同道した遠足の一行はとっくに帰ったとみえ、残された同志のF君と私は顔を見合わせて苦笑した。
これから帰宅すると遅くなる上に少し疲れたので、すすめられるままにF君の家に厄介になる。夫人は持ちこまれたあしたばで即席料理に大忙しだが、主人と私の密談は始まって、今日の場所は我々のホームグランドと定めて当分、秘密にしておこうではないかなどと良からぬ相談になる。
やがて夕食が運ばれると、先刻採ったばかりの産地直送ものがお浸しゃ天ぷらに変身して登場した。
山に盛られた山菜料理は、空腹が手伝って忽ちの中に舌に溶けると咽喉ぼとけをすべり落ちてめでたく成仏、久しぶりのご馳走で胃はよろこんでころげまわる。お浸しものは特有の香ですき嫌いはあるが、食べなれると上味い。回そうな葉軸は茄でると、柔らかくアスパラのよう。他のいろいろな山菜の中では出色と感じる。
天ぷらにすれば野性植物も一応食べられるが、あしたばは梅の芽より格段に上味い。ただし、新芽の聞ききらないものに限る。これに比べると大島の民宿で出された品は、聞き過ぎたものばかりで、味は格段に劣った。スーパーの品も、新芽に見えるよう包装されているが成葉であって味気ない。
これが病みつきで、件のホームグランドへ度々出かけることとなった。元来この草は成長も早くて遅しいから年中食品になるものの、やはり旬は三1五月で新芽新葉は佳鎮である。春の草は一様に生き生きと見えるが、この草は更に遣しくて精気に充ちている。牛の乳がよく出て乳質も上等になった実証は本当である。
人間の幸せは健康である。更に元気が出てモリモリ仕事が出来るよう、この草を奨める次第である。苗は原地か、園芸会社から入手できる。紛らわしい草があるが枝の切り口から黄液が出ればOで×は白液。三年生は秋、おびただしいタネをつけて一巻の終わり。栽培は容易である。

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